
2002年、大東建託の子会社として設立された株式会社ガスパル。創業時からのメイン事業は、大東建託グループが管理する物件を中心としたLPガスの供給・保安業務だ。さらに現在は、都市ガス小売事業や再生可能エネルギー事業、コインランドリー事業など幅広く展開している。代表取締役社長の橋本俊昭氏に、就任の経緯や企業が大切にしている思い、今後の展望をうかがった。
「人」ありきの組織運営で都市ガス小売事業を確立
ーーご経歴をお話しいただけますか。
橋本俊昭:
新聞の求人広告で一部上場したばかりの大東建託を見つけて、中途採用の面接を受けたことが今につながっています。まだまだ成長過程にあり、活気に満ちた会社として「決まりに縛られることなく、思う存分に働いてほしい」と言われ、魅力を感じたことを覚えています。
前職は銀行員だったことから、面接前に大東建託の決算書を読み、売上・利益・利益率において高業績である理由に興味があったことも、入社を決めた理由です。入社後は新卒社員の教育や、賃貸管理システムの開発に携わったのち、事業所の管理職として3年ほど支店に赴任しました。
当時の役割は、営業や成約状況の把握はもちろん、建物の設計から完成までの諸手続きをマネジメントすることです。2011年のガスパル着任までは、経営企画室に入って企業全体を見る仕事がしたいと考えていたので、組織の要としての学びは大きかったと言えます。
ーー貴社で取り組まれたことや、社長就任後の思いもうかがえますか?
橋本俊昭:
自身のキャリア形成にも作用した大きな取り組みは、2017年にスタートしたガス小売事業の自由化です。ガスパルも都市ガス小売事業を立ち上げることになり、私は仕入先の開拓などを一任されました。その成果を認めていただき、今のポジションに就任したと考えています。
管理職時代に学んだ「企業は人なり」という思いは、社長になってより強まりました。私の務めは、社員一人ひとりがお客様を大切にできる会社づくりだと感じています。
失敗を繰り返さない「保安第一」のエネルギー事業を展開

ーー貴社の事業内容と強みを教えてください。
橋本俊昭:
LPガスの販売・施工管理・保安業務を軸に、都市ガス小売事業、太陽光発電などの再生可能エネルギー事業、コインランドリーの運営といった、多角的な事業を展開しています。
「人の生きると共に歩むエネルギー企業」を目指す私たちの強みは、過去の失敗を教訓として定めた、経営理念・企業ミッションの社内共有です。ガスパルは急速に契約数を増す中で、保安業務をこなしきれず、2005年度に「一部業務停止」という重い行政処分を受けました。
最大の原因は、危険物であるガスの販売事業者に義務づけられた点検作業や、お客様への説明を怠り、不正行為を行ったことです。
経営体制を一新した私たちは、「自分たちの商品は『保安』である」という理念を経営の根幹としました。お客様に対する誠実さを大切に、「保安」という商品を磨き上げれば、利益はあとからついてくるという、ステップバイステップの価値観が生まれたのです。
そして、オーナー様や入居者様の方々から「ガスパルと一緒にいると生きる活力をもらえる」と言っていただけるように、社員たちが持つエネルギーもガスパルが提供するべきものとしてミッションに組み込み、豊かな社会づくりに励んでいます。
「裏切らない努力」を信じて電気事業を新たな柱に
ーー今後の展望をお聞かせください。
橋本俊昭:
新たな柱として電気の小売事業に参入し、将来的にはガスと電気をセットでお届けできる会社になりたいですね。実はグループ内でも背中を押してもらえる段階まで進んだのですが、世界情勢の変化や仕入価格の高騰により、成就に至っていません。
ゆくゆくは小売電気事業にチャレンジできるよう、現在は系統用蓄電所の運営も視野に入れています。
10年後には、大東建託グループ内で分担している各種エネルギー部門を、ガスパルが統括・マネジメントしていくという目標もあります。保安第一の当社だからこそ、安全安心かつ、地球にやさしいエネルギーを供給していけるという発想です。
ーー若手の方にメッセージをお願いします。
橋本俊昭:
どんな仕事も必ず誰かにつながっていると考え、仕事のやりがいを自分で決めることが大切です。自分の仕事が人にどんな影響を与えるか、常に想像することを心がければ、毎日が同じ作業の繰り返しになることはないでしょう。
人生は一度きりで、自分のものだからこそ、主体的に生きてほしいとも思います。失敗をした時に他責思考に陥らず、自分が果たせる責任があったはずだ、と振り返らなくてはいけません。失敗から何かを掴み、人生の責任を負うことが主体的に生きるということです。
社員には、会社と自分の目指すところの共通点を見つけながら、自ら努力する人になってほしいと伝えています。私はこれまで、真剣に努力して叶わなかったことは一つもありません。努力は絶対に裏切らないというポリシーのもと、真剣に取り組んできた電気事業にも、数年以内に必ず参入できると思っています。
編集後記
数字を追いがちな営業の現場や会社が得た教訓から、人に信頼されることの大切さを学んだ橋本社長。彼の責任感の強さや心得がしっかりと伝わっているからこそ、企業理念の浸透・維持が実現し、社員のモチベーションやエンゲージメントも高まっているのだろう。着実に積み上げてきた信頼の種が、新規事業という花を咲かせる日は近い。

橋本俊昭/1964年生まれ。大学を卒業後、1988年に三菱銀行へ入社。1992年、大東建託株式会社へ入社。人事部能力開発課にて教育部門、賃貸管理部門にてシステム開発業務に携わる。複数のグループ会社へ出向したのち、2011年に株式会社ガスパルへ着任。専務取締役を経て、2019年に代表取締役社長に就任。