
人体に優しい医療素材の可能性を追求するスリー・ディー・マトリックス株式会社。同社はアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)で発明された「自己組織化ペプチド」を基盤に、安全性と生体適合性を兼ね備えた医療素材を提供している。医療の未来を変える技術について、代表取締役社長の岡田淳氏に話を聞いた。
MITの技術に魅了され、ベンチャー企業への転身を決意した
ーー岡田社長の経歴について教えてください。
岡田淳:
私は東京大学の理科2類に入り、その後、法学部に転部して政治や行政について学びました。就職活動では公務員になるという選択肢もありましたが、当時は外資系コンサルティングが非常に流行っていた時期で、「手に職をつけたい」と思い、ベイン・アンド・カンパニーに入社することにしたのです。
そこでさまざまのプロジェクトに携わる中で、製薬業界のプロジェクトを丸2年担当し、医療業界の面白さを知りました。その後、ベインに在籍しながらフランスに留学し、INSEADというビジネススクールでMBAを取得しています。2004年に留学から戻ってきた際、大企業では物事を自分で決められない面もあると感じていたため、ベンチャー企業の経営層に近いところで働きたいと考えるようになりました。
そうして2005年に、ベインの元上司で弊社の会長である永野のもとへ挨拶に行ったところ、「面白い案件をやっているから一緒にやらないか」と誘ってもらったのです。そして、次に訪問したときには既に私の席が用意されていました。加えて、MITの技術を用いた案件に携われるというのも魅力的だったため、弊社への入社を決めました。
従来の生体材料の限界を超える次世代の素材
ーー貴社の事業内容について教えてください。
岡田淳:
弊社が扱っているのは「自己組織化ペプチド」という特殊な医療素材です。ペプチドとはアミノ酸が複数くっついたもののことです。この技術自体はアメリカのMITで発明されたものですが、弊社が独占的な使用権を持っています。
医療現場で使われる生体材料には従来、動物由来の素材か人工物かという2択がありました。動物由来のコラーゲンやヒアルロン酸などは体との親和性は高いものの、未知のウイルスなどの病原体に感染するリスクがあります。一方、人工物のアパタイトやチタンは感染リスクの課題はクリアできているものの、分解された際の安全性が不明確です。その点、自己組織化ペプチドは感染リスクがないことに加えて、体内で分解されてもアミノ酸になるため安全で、かつ細胞の増殖を促進するという特性があります。
ーー具体的にどのような製品を展開していますか?
岡田淳:
最初に注目したのは止血材です。「自己組織化ペプチド」は血液に触れるとゲル状になり、血を止める効果があるのです。しかも安全で、傷の治りも早くなる特性があります。現在の売上のほとんどがこの止血材用途ですが、外科用素材や組織再生の分野にも展開しています。たとえば、骨や皮膚の再生、心臓筋肉の修復などですね。
さらに、「自己組織化ペプチド」を薬と混ぜることで、薬をゆっくり放出したり、壊れやすい薬を保護したりする「ドラッグデリバリーシステム」としての用途も開発中です。「自己組織化ペプチド」は日本では弊社のみが取り扱っており、さまざまな専門家との共同研究を通じて用途を広げています。現在、動いている共同研究だけでも世界で40〜50本あり、オープンイノベーションの形で技術開発を進めています。
利益創出と再投資の好循環をつくり出し、新たな市場に挑む

ーー今後の展望について教えてください。
岡田淳:
弊社はこれまで研究開発と市場開拓に注力してきましたが、今後は利益率の向上が最重要テーマです。バイオベンチャーの多くが利益の創出に苦戦する中、弊社が利益を出せる企業として業界の先駆けとなりたいと考えています。目標は数年以内に営業利益率20〜30%を達成することです。
そして、しっかりと利益を確保した後は、組織再生やドラッグデリバリーの分野への再投資を積極的に行う予定です。現在の止血材市場は約5000億円ほどの規模ですが、組織再生やドラッグデリバリーは将来的に数兆円規模の市場になるといわれています。これらの分野に足がかりをつくり、さらなる成長を実現していきたいですね。
ーーどのような人材を求めていますか?
岡田淳:
弊社の海外展開においては、グローバルな視点を持った人材が不可欠です。特に内視鏡分野に知見のある営業人材を積極的に募集しています。また、将来の柱となるであろう組織再生やドラッグデリバリーシステム分野の開発に携わりたい方も歓迎します。社風としては、自ら率先して物事を進め、考えを積極的に提言できる方が活躍しているので、そうした方に来ていただけるとありがたいです。
日本企業でありながらグローバルに活動し、社員の多くが外国人という点も弊社ならではのユニークな特徴だと思っています。ぜひIRページ(※)もご覧いただき、弊社の可能性を感じていただければ幸いです。
(※)IR情報ページ
編集後記
「人工物でもなく、動物由来でもない」という、第三の選択肢を医療にもたらすスリー・ディー・マトリックス。岡田社長の語る言葉からは、医療と技術の橋渡し役としての誇りと使命感が伝わってきた。人体に優しく、かつ効果的な素材が今後どれほどの医療革新をもたらすのか。ここから生まれる未来の医療シーンを想像すると、胸が高鳴った。

岡田淳/東京大学法学部卒業。フランスINSEAD校経営学修士(MBA)。1998年よりベイン・アンド・カンパニーの東京事務所において、コンサルタントとして勤務。ベンチャーキャピタルのバイオ投資支援、製薬企業の開発支援(1年間常駐)なども含め多数のプロジェクトに携わる。2005年に株式会社スリー・ディー・マトリックスへ入社し、経営企画担当、取締役を歴任。2016年に代表取締役社長に就任。